ヒデとマダムの問わず語り 〜好きにさせてよ〜

とあるアンダーグラウンドなバーのオーナー「ザマさん(ヒデ)」と70年代生まれの通称「マダム」が、アート中心に好き勝手語るバーチャルサロンです。よろしくどうぞ。

マダムのショートショート 〜The Low 2〜

なんだかやけになまぬるい風が吹く夕方だ。

うちを出ると目の前を黒猫が横切った。やたらと尻尾が短いやつだが、近親相姦で生まれるというのは本当だろうか?

店には15分も早く着いた。俺は遅刻が嫌いだ。

ドアを開けると、モニターにブロンディが映っている、素敵だ。再結成されたのは知っているが、やっぱりHeart of Glassのデボラは桁違いだ、キラキラしてる。天使みたいっていうのは、こういうのを言うんだろう。
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俺は店内を見回した、適当なテーブルについて、ビールを飲もう。店には太ったアメリカ人のカップルと、若い中国人のグループがいた。アメリカ人の男の方は、「秋葉原」と書かれたTシャツを着ている。

でかいモニターがよく見えるスツールに腰を下ろした、暇つぶしにはもってこいだ。

コロナが運ばれてきたとき、頭上のモニターがチカチカ点滅し始めた、新手のMVだとしても目に悪い。店員を呼ぼうと手を挙げた瞬間、モニターに女が映った。物凄い美人だ。実際見たら多分震えがくる、それくらい綺麗だった。

俺は画面から目を離さずに、コロナの中へライムを押し込んだ。

「待たせたかしら?」

画面の女が言う。俺か?俺に聞いてんのか?

女の唇はデボラと同じくらい赤くてツヤツヤしている、目も髪も真っ黒だ。物凄く襟ぐりの深い服を着て、魅惑の谷間を見せつけんばかりにしている。なんというか、色々なものが「たっぷりしている」。

俺は周りを見渡した。コロナなんてこんな瓶、三口で終わっちまう。誰も俺の頭上に女が映ってるなんて気づいてない様子だった、どう考えてもおかしいと思うんだが、もしかしたら一番おかしいのは俺かもしれないと思って、それ以上周りのことを考えるのはやめた。どうせ明日にはみんな忘れちまうんだ。

「依頼ってなんだ?」

単刀直入に俺は聞いた、いい女に対して無駄口は叩かないのが男ってもんだ。口説く隙もなさそうなら尚更だ。

「ここのオフィスに、小さな雀の剥製があるのよ。それを今夜中に、港まで持って行って欲しいの。どちらもオーナーに話をつけてあるから、言えばわかるわ。」

俺は残りのコロナを飲み干した。

ヤバそうな取引なら、それなりの見返りってもんがある。

「御礼は3ヶ月分の給料と」

カメラが引いて、女の全身が映し出される。非常にゆっくりと。

女は黒いスカートを履いて、ソファに座っていた。カメラが止まると、優雅に脚を組み替えた。こんなに見事な脚、見たことない。俺は遠くて阿呆みたいにぽかんとしてるウェイターを呼んでコロナのお代わりを頼んだ、2本。
出来ることならこの女にも何かご馳走したいが所詮はモニター越しだ、叶わぬ片思い。

「きちんと遂行出来たら、お望みのものを差し上げるわ」

なんてこった、面白くなってきたじゃねえか。

俺は頼んだコロナの1本を秋葉原好きのアメリカ人に押し付けると、お勘定をしてオフィスに向かった。