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ヒデとマダムの問わず語り 〜好きにさせてよ〜

とあるアンダーグラウンドなバーのオーナー「ザマさん(ヒデ)」と70年代生まれの通称「マダム」が、アート中心に好き勝手語るバーチャルサロンです。よろしくどうぞ。

ヒデとマダムの寅さん語り 〜寅次郎物語〜

スコセッシの『沈黙』と『寅次郎物語』のリンク

【マダム】先日、ザマさんがスコセッシの『沈黙』評で、イッセー尾形も賞賛してたじゃないですか。おとつい、去年BSで録画してあった寅さん観たんですよ、秋吉久美子編。

大阪かどっかの駅のおまわりがイッセー尾形だったんですけど、その演技にうちの亭主膝叩いて大絶賛、あれー、イッセー尾形って芸人だったっけ?なんて思っていた矢先のレポだったんで、タイムリーでした。

次郎物語あらすじ
寅さんの稼業仲間がおっ死んで、残された一人息子がとらやを訪ねてくる。義理に駆られた寅さんが、蒸発したという母親(五月みどり!)訪ねて、死んだ友達の息子と旅道中。

旅の途中に寄った旅館で子供が熱を出し、たまたま隣室に泊まっていた隆子という女性が看病に当たってくれる。旅館の主人は二人を夫婦と勘違いしてー

【ヒデ】寅次郎物語を観ました。
これは奥が深い後期の傑作ですね。
子供が死の淵から助かる事を契機に、これまで人生を無駄に過ごしていたと思っていた寅次郎、秋吉久美子五月みどり、満男が再生する物語でした。
しかもそのキーワードが、

「生きていれば、『あー生きてて良かった!』と思う事があるだろう。そのために生きてるんじゃないのかい」

というありふれた言葉である事が、観客である僕をも救ってくれました。
本作で、仏は愚者を愛するという御前様の言葉がありましたが、これは『沈黙 サイレンス』のキチジローに当てはまるように思います。

【マダム】こんなところでも思わぬリンクがありましたね。
そのセリフを言う時の御前様=笠智衆の表情がまた!
どこか寂しそうで、でも晴れやか。この世の皮肉に気づいて、そして静かに受け入れる懐。どこまでも透き通っていて、凄みありけり。

亡くなった親友の位牌に語りかけるシーンもぐっと来ちゃいましたね、冷やで一杯やりながら、もっといい生き方はなかったのかいと問う寅さんの丸めた背中が切ない。その直前に出てくる宿屋のいかにも大阪!なノーテンキオバチャンとの対比も切なさ増して。

満男の再生も係っていたのか!
カメオ出演五月みどりの演技も良かったですよね。

寅さんという聖なる愚者

【ヒデ】同業仲間だった「般若の政」の位牌に語りかけるシーン。あれは寅次郎自身の事でもありますよね。それが、ストーリーの後方で秋吉久美子演じる隆子が語る、「人生を粗末にしてしまった」というのに重なっていく。
『寅次郎物語』での寅次郎は、いつにもまして自分を俯瞰で見ていますね。

母親と再会した後、船着場で一緒に柴又に行くという子供にも、「俺のような人間になっていいのか?」と言うし、柴又から旅にでる時さくらに、「仕事とは、ひろしのように家族の為に汗と油にまみれて一緒懸命働く事を言うんだ、俺ようなテキ屋なんて仕事とは言えない」といったことを言う。
ラストでは幸せそうな五月みどり達を見て、自分達は会ってはいけない人間なんだと屋台の陰に身を潜め、そして、あの船長がてて親ならば大丈夫だとつぶやく。

秋吉久美子との駅での別れで、彼女に一緒に柴又に来ないかと言えないのも、五月みどりを不幸にした自分の友達と自分が重なるからではないだろうか?
自分が愚者である事を認識して、人を愛し、愛を与えるだけで見返りを求めない、「無償の愛」「同体の慈悲」と呼ばれる仏さまのお心に通じている。まさに寅次郎の体に仏さまが宿ったような・・・
聖なる愚者に寅次郎はなっていたんだね。

【マダム】思いがけなく、普段の寅さん以上に深いテーマでしたね、寅次郎物語。いや、山田洋次監督なんでどれとっても深いんだけど、ザマさんが言うように、寅さんの言葉や態度がよりストレートに刺さるというか。観ている人個々人の気持ちや人生に、そっと寄り添ってくれる、そんな一本でしたね。

それにしても秋吉久美子って人は、うらぶれた表情や、「ちょっとだけふしあわせ」な役が、本当によく似合いますね〜。

かなしみの先に見える光

【ヒデ】最後の夜。秋吉久美子が寅次郎の部屋にやってきて、「いつか、父さんに会えるときがくるやろうな」と寅次郎にもたれるようにして言うシーン。その後の、「私、粗末にしてしまったのね、大事な人生なのに」と泣き伏せるシーン。たまりません。抱きしめたくなりました。
そして駅での別れで、寂しそうな微笑みから、一瞬悲しみの表情になるところ、いいですよね。なんで「俺と一緒に行こう」と言わないんだよ寅さん、と思う。

この表情っていつもは柴又駅でマドンナを見送る時の寅さんの表情ですよね。
秋吉久美子が演じる隆子もまた、寅次郎と同じ傷ついた魂を持っている。
そして、それはリリーに通じているかもしない。

【マダム】傷つけ、傷つく時、人は醜くなってしまうときがある。でも相手の幸せを願って悲しみを堪えるとき、他者を慮るとき、かなしみの先に見える光がある。

なんだか、そんな光を見させてもらった気がしますね。