ヒデとマダムの問わず語り 〜好きにさせてよ〜

とあるアンダーグラウンドなバーのオーナー「ザマさん(ヒデ)」と70年代生まれの通称「マダム」が、アート中心に好き勝手語るバーチャルサロンです。よろしくどうぞ。

マダムのショートショート ~The Low~

 

バロウズに捧ぐ

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午後3時にかかってくる電話にロクなものはない。

 

「日曜日の午後3時というのは何かをするには遅すぎるか、早すぎるのどちらかだ」と言った作家がいたような気がするが、思い出そうとするにはあまりにもテレビがうるさすぎる。

朝11時まで飲んでいた酒が効きすぎていてまだベッドから起きられない。

テレビに映っているのはいずれも間抜け面・腑抜け面・アホ面のどれかで、例外はない。

枕元の電話が鳴る。

 

「ハーイ。あたしよ。」 

 

セクシーな声だ、悪くない。 

「昨日Holyのパーティで会ったでしょ、覚えてない?」

 

行ってるわけがない。大体パーティなんて浮かれた言葉を聞いたのは何年振りだ?

 

「まだ酔っぱらってるの?」

 

「Holy」なんて名前のつくパーティにどんな奴らが来てるかって、想像しただけでも反吐が出そうだが、こいつは別物のようだ。俺は受話器を耳に押し付けたまま、女に話を続けさせようと決めた。

 「ああ、覚えてるよ」

 

昨日の夜はさんざんだった、

近所のバーに行ったら隣で飲んでた男女が痴話喧嘩をおっぱじめたんで「カナリア」に行った、そしたら昔の知り合いにばったり出くわして(お互い歓迎しない顔だったが仕方ない)、なんとなく連れ立ってバーに行ってそこのバーテンがホモかどうか賭けた、「である」に賭けた俺は負けて2人におごるハメになった、最後は顔なじみのホステスの家に無理やり転げ込んで3人でテキーラを飲んではちゃめちゃやった、

明け方にはホステスはトイレの床に伸びていた。
もう一人のそいつはどうにかホステスの尻を拝めないかと同じように床に転がっていて、俺はそいつの尻ポケットからキャメルを1本抜き取ると、意気揚々と、ーってわけには無論いかなかった、酒臭い青色吐息でマンションを後にした。日曜の朝、11時。いつも通り。

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「昨日約束した通り、頼みごとがあるのよ」

 

俺はテレビを消した。たとえ地球が破滅したってこいつらは馬鹿話を続けてるだろう。

 頭は若干痛むが、アスピリンがどこかにあるはずだ、サイドテーブルの引き出しに手を伸ばした。手に触れたのはいつ買ったかすら思い出せないコンドームだった。

 

「ねえ、聞いてる?」

ゾクゾクしてきた。まるで羽毛で耳を撫でられてるみたいだ。とりあえずシャワーは浴びておこう、人生いつ何が起きるかわからない。

 

女は、6時にハードロックカフェで待ってるわ、と言って電話を切った。
アスピリンレッドブルで飲み下し、クレジットカードの支払を催促する債権会社の留守番メッセージを消去し(なんだってあいつらはそろいも揃ってあんな喋り方なんだ?)、シャワーを浴びて出てくると、時計の針は4時10分前まで進んでいた。よしよし。魔の3時はもう終わりってわけだ。

洗面台の鏡に向かって俺は自分の顔と向き合った。ろくでもない顔だが、人間諦めが肝心だ。死んだ親父の口癖だった。親父に免じて、今日は顔のことは忘れよう。

 

 

Photo by ヒデ