ヒデとマダムの問わず語り 〜好きにさせてよ〜

とあるアンダーグラウンドなバーのオーナー「ザマさん(ヒデ)」と70年代生まれの通称「マダム」が、アート中心に好き勝手語るバーチャルサロンです。よろしくどうぞ。

ポエトリー・リーディング 〜マダムの独り言〜

来月すみだトリフォニーホールで開催されるパティ・スミスフィリップ・グラスのステージに行くことにした。

きっかけは発作のように昨日閃いた、
「そうだ、パティ聴いてみよう」の思いつきと、朝出がけに本棚から引っ掴んで鞄に入れたのが柴田元幸氏訳のポール・オースター『ムーン・パレス』(ほぼ毎年、この季節になると読み返したくなる・・・!)だったこと、

そして「たまたま」数時間後に、インターネットで上述のステージを知るという、
もはや天啓と呼んでも良いレベルの偶然。


The Coral Sea』

5月にしては暑過ぎる夕暮れの中、パティのポエトリー・リーディングを聴きながら、
灰色の建物と高架下を辿ってジョギングをしてみる。

身体は熱いのだが頭は深い湖の中に沈んでいるかのような感覚、静謐な白昼夢感。
皆既日食の時にこれを聴いてみたら合いそうだな、などと夢想しつつ、リピートをするのだった。

LINEでザマさんにパティ×マイ・ブラッディ・バレンタインを聴いています、
と伝えると、

「後で聴いてみます。
マイブラとパティー・スミスとは良さそうだね。
映画『24アワーズ パーティー ピープル』
観ましたか?ファクトリー・レコードの興亡を描いてるのだけれど、その中でマイブラが『ラブレス』に金をかけ過ぎて、ファクトリーが倒産してしまった事が描かれていたっけ」

との返信。

さすがザマさん、
そんな映画があることすら知らなかった為、また宿題が増えてしまったと独りごちつつ。


「ネットであらすじ見てみたんですが、相当面白そう!」

「最初セックスピストルズのライブからはじまるんだけど、数少ない客ながら後のニューウェーブを担うアーティストばかり見に来ているんだよね」

「シンプリーレッド!?ニューオーダーも!?」

「そうそう すごい感性の集まり」


何やらのっけから刺激的な匂いのする映画である。

そこから話は冒頭のパティ・スミス&フィリップ・グラス来日公演の件に。

「最近にはまれな、凄くアーティスティクな公演だね。フィリップ・グラスは映画『コヤニスカティ』でその存在を示した。
少し前にデヴィッド・ボウイとイーノと共にボウイのベルリン三部作を再構築していたね。
最近では他のアーティストとのコラボしているのかな?
これなんて、まさにその延長のようだね。
村上春樹の『海辺のカフカ』にフィリップ・グラスは似合うかも。」

そう言ってザマさんは、
「今日はこれからデートですので、また明日にでも」と言って通信をやめた(毎週水曜日は先生デートの日なのである)。



さて私にとって「ポエトリー・リーディング」の強烈な体験と言えば、98年Talkin’loudからリリースされた4heroの『2pages』。(嗚呼、90年代のTalkin’loudって言ったら!!!)

このアルバムは今聴いてもその壮大なスケール、舞台設置、叙事詩のような展開に感服し、清々しい気持ちになる。
リリースからもう何年も経つけど、栄枯盛衰激しいクラブ/ダンス・ミュージック界における、あるターニングポイントとしての金字塔的役割としても、決して消費・磨耗されない作品だと思う。

フィラデルフィア出身のポエット(詩人)、Ursula Ruckerという女性アーティストがフューチャーされている、
これまた「Loveless」という曲がある。

環境破壊を止められない人類の愚かさを「母なる地球」の視点で歌ったものだ。
この曲はまさに今、聴くべき一曲であるのは間違いない。

和訳を掲載されているブログを見つけたので、勝手ながらリンクを貼らせて頂く。
タイムレスな歌詞の深遠さに慄ける。
http://jetset1000.blogspot.jp/2011/02/4hero-loveless-lyrics_15.html?m=1

アーシュラ(ウルスラ?)が歌う、「愛なき世界」。

後年、同タイトルの曲が日本国内のアイドルやアーティストからもリリースされてきたが、
loveless」という言葉の持つ真意を、この4heroの楽曲程に表現している曲はないと思う。

90年代はジャミロクワイのジェイ.Kもこういったメッセージソングを多くリリースしていて、そのキャッチーな佇まいとは裏腹の、
傷付きやすい少年がやんちゃなままに社会・システムを辛辣に批判するという姿勢に痺れたもの。
そして少年のまま大人になったジェイはスポーツカー狂となっていき、
表舞台には現れなくなった。

沈黙を続ける彼のアティテュードに私は、
「あれだけ歌っても結局届かなかった」世界への絶望を感じてしまうのだけど(勝手な妄想。でも彼がまさに、アイドルの皮を被った90年代のヒーローであったことは今さら疑うべくもない)。

話はずれたが、ポエトリー・リーディングとアシッドジャズ、ドラムンベースのマリアージュだった『Parallel universe』『2pages』は若かりし頃の私が持っていたクラブミュージックの概念を捻じ曲げ、以降、ポエトリー・リーディングの素晴らしい可能性を示し続けている。

音と声、詩、それら全てのタイミングが神業のように重なり合って空間を支配する瞬間は儀式に近いような気がしており、
ライブでこそ、有機的なフュージョンが誕生する瞬間に立ち会えることだろう。

ポエトリー・リーディングほどインタラクティブなアートはないかもしれない。

来月のパティが楽しみだ。
魂に、鳥肌を立てよう。


最後に、ドイツの異能集団JAZZANOVAが立ち上げたレーベルSonar Kollektiv Orchesterがremixした『Universal Love remix』で締めたいと思う、

So Relax,So Chill。