ヒデとマダムの問わず語り 〜好きにさせてよ〜

とあるアンダーグラウンドなバーのオーナー「ザマさん(ヒデ)」と70年代生まれの通称「マダム」が、アート中心に好き勝手語るバーチャルサロンです。よろしくどうぞ。

クリスマスの贈り物

ビリー・レッツという女性はアメリカのオクラホマ・タルサで生まれ、その地で結婚し3人の子を産み育て、俳優兼教授でもある夫と生涯連れ添い、そしてその地で亡くなった。

作家としてデビューしたのは50を過ぎてからだった、うち一冊は脚本家の息子と協働して映画化もされている。

作者あとがきには、
「作家としてデビューはしたけれど、私は変わらず愛する家族のためにチキンフライを揚げたり、釣りをしに出かける日々です」

と記されていて、改めて彼女の作品を顧みるに、地に足をつけてこその視点、人生賛歌を歌い上げる胆力を垣間見ることができる。

二冊目の著書、「ハートブレイク・カフェ」はタイトルからして表で読む際にはカバーをかけざるを得ない、なんともセンチメンタルな意趣に満ちた邦題が付けられているが、原題は“The Honk and Holler Opening Soon”

即ち、「ホンク&ホラー近日開店」である。


舞台はアメリカオクラホマ
片田舎のパッとしないダイナーで、ある年のクリスマスから翌年のクリスマスにかけて繰り広げられる人間ドラマ。

大人になれば誰もが痛みや傷の大なり小なりを抱えて生きている、

そして大抵は、「癒しなんかくそくらえ」とばかりに、日々をやり過ごす(本当は魂から欠落したかけらを探しているにも関わらず)。


ダイナーを営むのはヴェトナム戦争で半身不随になった30男、ケイニー。

女将はいつも不良娘の行方を心配しているトレーラー住まいのモリー・O。

店には今日もそれぞれに偏屈で、ちょっとずつ人生に疲れた人達が朝の一杯を飲みに、ランチを食べに、訪れる。しみったれたダイナーの、穏やかで決まりきった毎日。

そんなある日、カウボーイブーツを履いたインディアンの娘が現れて、小遣い稼ぎの為にカーホップ(駐車場での客引き)をやらせてくれないかと頼み込むー…


設定も背景も出てくる料理も、無論日本にいる我々からするといかにも「ザ・アメリカ!」なのだが、読み進めて行くうちに、いつしか人種や国を忘れ、登場人物達に感情移入させられていることに気付く。

そこに描き出されているのは、普遍的な人間としての姿ー 真実を求め、また、求めながらも「大人」ゆえに、目を逸らそうとする切ない心の動き、
不器用さや傷付きやすさ、もうどうにもならない過去に人はどう向き合うのか。
そして赦しへの道標と、その先にあるものー

そういった世代や人種を超えた(事実、この小説の中では白人、先住民族、アジア人のキャラクターが出てきて、それぞれ主軸となるテーマでもってこの物語を織り上げていくのである)、「ハートの中の問題」「スピリットの在り方」が提示されていくのである。


時に痛快、時にハラハラ、
そして心温まるラストに涙じんわり、やだなぁもう。電車の中じゃ、ちと恥ずかしい。


でも、一年に一度。

我が国もクリスマスはもはや当然のホリデイシーズン、


読んだらきっと、少しだけ、いつもより優しくなれる。



そんなクリスマスの贈り物を、自分にも。

ハートブレイク・カフェ (文春文庫)

ハートブレイク・カフェ (文春文庫)